スポーツやボディメイクをする上で非常に重要となるのは、速筋と遅筋の性質の違いを知ることです。筋線維の種類と特徴、速筋と遅筋の長所や短所、適したスポーツ、鍛え方、比率、測定方法などを解説します。
目次
筋線維とは
筋肉の中には、筋束という膜の中に1本1本が糸状の数千の筋線維が束ねられ、さらにその中には数百の筋原線維が集まって構成されています。
この筋束が集まって筋肉になり、腱を介して骨についています。
運動中は、この糸状の筋線維が収縮することによって力が発揮されます。
筋繊維は、すべて同じ性質を持っているのではなく、収縮の速度や構造の違いによって分類されます。
- 速筋(白筋・FG・タイプⅡb)
- 遅筋(赤筋・SO・タイプⅠ)
- 中間筋(ピンク筋・FOG・タイプⅡa)
身体の部位によって、速筋の多い筋肉、遅筋の多い筋肉があり、同じ太さでも速筋の割合が高ければ力は強くなります。
速筋と遅筋は、生まれつき比率が決まっており、人によって異なるので、その構成比によって競技特性が変わってきます。
先天的なものなので、比率を変えることはできませんが、トレーニングによって筋線維の数は増えなくても、それぞれの筋繊維を太く強くすることは可能です。
速筋はさらに数種類に分類され、中間筋は、速筋線維に含まれます。
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速筋(白筋・FG・タイプⅡb)
速筋は、酸素を蓄えるミオグロビンをほとんど含んでいないことから、白っぽい色になっていて、「白筋」とも呼ばれる筋繊維です。
筋肉の代謝的な特性によって分ける方法では、解糖系のエネルギー代謝(無酸素)を行うタイプであることから「FG」(fast glycolytic)と呼ばれます。
また、ATPase染色法という方法で分類した場合、「タイプⅡb」とも呼ばれています。
速筋を運動させるためのエネルギー源は、主に糖分で酸素を必要としません。瞬発力に優れているが持久力がないので、短時間に大きな力を発揮する運動(無酸素運動)に適しています。
速筋の割合が多い筋肉はアウターマッスルが多いので、鍛えると筋肥大しやすく、見た目にも変化がわかります。
速筋の特徴
【速筋の長所】
- 体積が大きく、筋肉の変化が目に見える
- パワーとスピードがある
- 瞬発力がある
- 筋肥大しやすい
- 代謝が良い
- 無酸素運動に向いている
- 解糖能力に優れている
【速筋の短所】
- 加齢とともに衰えるのが早い
- 持久力がなく疲れやすい
- 筋肉痛になりやすく、回復が遅い
- 太りやすい体質
- 日常生活では、ほとんど使われない
主に速筋が使われるスポーツ
- 陸上(短距離走)
- 水泳(短距離)
- 跳躍(走り高跳び・走り幅跳び・三段跳び)
- 投てき種目(砲丸投げ・円盤投げ・やり投げ・ハンマー投げ)
- 重量挙げ
- 格闘技(相撲・レスリング・柔道)
- スピードスケート
特に速筋の比率が多い部位
- 大腿四頭筋(前もも)
身体の中で最も大きく瞬発的な動きが多い筋肉のひとつ - 上腕三頭筋(二の腕)
腕にある筋肉の中でも一番の体積を占めている部位 - 胸鎖乳突筋(首)
耳の下から鎖骨まで伸びている首の筋肉
速筋の鍛え方
- 高負荷・低回数で筋力トレーニングを行う
- エキセントリック収縮(ネガティブ動作)を効かせる
- フリーウエイトトレーニングでは補助者をつけてフォースドレップを取り入れる
- マシントレーニングでは、負荷を細かく設定しながらより強い負荷をかける
- 反動を使って瞬時に爆発的な力を発揮するバリスティックトレーニングを行う
- ジャンプ動作を中心としたプライオメトリックトレーニングを行う
- 筋力トレーニングでは、マルチセット法やピラミッドセット法を使って筋肉にできるだけ強い負荷を与える
- スプリントトレーニングやアジリティトレーニングなど、無酸素運動を行う
- 筋疲労する前に、短時間で集中的にトレーニングを行う
- 大きな筋肉、アウターマッスルを中心にアプローチをする
遅筋(赤筋・SO・タイプⅠ)
遅筋は、酸素を蓄えるミオグロビンをたくさん含んでいることから、赤っぽい色になっていて、「赤筋」とも呼ばれる筋繊維です。
筋肉の代謝的な特性によって分ける方法では、酸素を用いるエネルギー代謝(有酸素)を行うタイプであることから「SO」(slow oxidative)と呼ばれます。
また、ATPase染色法という方法で分類した場合、「タイプⅠ」とも呼ばれています。
遅筋を運動させるためのエネルギー源は、主に脂質で酸素を必要とします。
持久力に優れているが瞬発力がないので、小さな力を長時間継続する運動(有酸素運動)に適しています。また、姿勢の保持やバランスを取ったりして、内側から身体を支えているのが特徴です。
遅筋の割合が多い筋肉はインナーマッスルに多いので、鍛えても筋肥大しにくく、スマートな身体をつくることができます。
遅筋の特徴
【遅筋の長所】
- 持久力がある
- 筋肉痛になりにくく、回復が早い
- 太りにくい体質
- 鍛えても筋肥大しにくく、ボディサイズを抑えられる
- 有酸素運動に向いている
- 脂肪燃焼しやすい
- 加齢によって衰えにくい
- 日常生活でも使われる
【遅筋の短所】
- 筋肥大しにくい
- 瞬発力がない
- 体積が小さく、筋肉の変化が目に見えない
主に遅筋が使われるスポーツ
- 陸上(マラソン・競歩)
- 水泳(長距離)
- スキー
- クロスカントリー
- サイクリング
- ロードレース
- トライアスロン
特に遅筋の比率が多い部位
- ヒラメ筋(アキレス腱)
ふくらはぎの下に位置し、長時間体重を支えて歩行などを助ける筋肉 - 脊柱起立筋(背骨)
背骨を支え、 身体を安定させるために常に力を発揮している筋肉 - 前脛骨筋(すね)
すねの前側にある筋肉で、つま先を持ち上げたり足関節を固定させる筋肉
遅筋の鍛え方
- 低負荷・高回数で筋力トレーニングを行う
- コンセントリック収縮(ポジティブ動作)では、素早く動作を行う
- 小さい力で継続的に同じ動作を繰り返す反復トレーニングを行う
- 長距離をゆっくり走るLSD(ロングスローディスタンス)を行う
- 自重トレーニングを行う
- スタビリティボールなどを使ったコアトレーニングを行う
- バランス能力を高めるスタビライゼーショントレーニングを行う
- 姿勢キープなどのアイソメトリックトレーニングを行う
- チューブやバンドを使ったチューブトレーニングを行う
- 長距離のランニングやサイクリングなど、有酸素運動を行う
- 体幹部、インナーマッスルを中心にアプローチする
中間筋(ピンク筋・FOG・タイプⅡa)
中間筋は、酸素を蓄えるミオグロビンをほどほどに含んでいることから、中間色のピンク色に見えるので、「ピンク筋」とも呼ばれる筋繊維です。
筋肉の代謝的な特性によって分ける方法で、FO(fast glycolytic)にもSO(slow oxidative)にも属さない中間的なタイプがあり、FGとSOの間ということで「FOG」(fast oxidative-glycolytic)と呼ばれます。
また、ATPase染色法という方法で分類した場合、「タイプⅡa」とも呼ばれています。
中間筋は、速筋に分類されます。トレーニングによって、
中間筋を運動させるためのエネルギー源は、主に糖と脂質で酸素も必要とします。
速筋と遅筋の中間にあたる性質があり、瞬発力と持久力の両方を兼ね揃えた万能な筋肉となっています。
中間筋が多い筋肉は、ほどよくボリュームがあり、引き締まった身体です。
中間筋の特徴
【中間筋の長所】
- 瞬発力と持久力がバランスよくある
- 万能型の筋肉で、多くのスポーツに適している
- 速筋の割合が多い人は、トレーニングによって持久力が必要な運動もできるようになる
- 無酸素運動も有酸素運動もできる
- 痩せやすく、太りにくい体質
【中間筋の短所】
- ハードなトレーニングが必要
- 遅筋の割合が多い人は、トレーニングによって瞬発力をアップさせるのに限界がある
主に中間筋が使われるスポーツ
- 陸上(中距離走・十種七種)
- 水泳(中距離)
- サッカー
- バスケットボール
- テニス
- ホッケー
- ハンドボール
- ラグビー
- バレーボール
- バドミントン
- 格闘技(ボクシング・キックボクシング)
特に中間筋の比率が多い部位
- 広背筋(背中)
背中から腰、腕へと繋がっている大きな筋肉 - ハムストリングス(裏もも)
おしりの付け根から太ももの裏側にある3つの筋肉(大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋)の総称
中間筋の鍛え方
- HIITなどのインターバルトレーニングを行う
- 無酸素運動と有酸素運動を連続して交互に取り入れたサーキットトレーニングを行う
- 筋持久力トレーニングを行う
- 中距離のテンポ(ペース)・ランを行う
- 筋力トレーニングをした後に、有酸素運動をする
- 球技を行う
身体の部位ごとの速筋と遅筋の比率
身体の各部位の速筋と遅筋の比率は、一般的に「50:50」の半々だといわれています。
しかし、部位によってその比率は異なり、主に瞬発的な動きが多い筋肉には速筋線維、姿勢を保つための筋肉には遅筋繊維が多く含まれています。
先天的な要因が大きく個人差がありますが、大まかな速筋と遅筋の比率の目安は次の通りです。
速筋が多い大腿筋や上腕三頭筋などは、高重量・低回数の筋力トレーニングをして、遅筋が多い体幹部などは低重量・高回数の筋力トレーニングをするなど、部位ごとの速筋と遅筋の割合を考慮してトレーニングの仕方を工夫すると、より効果的に成果が得られます。
また、速筋の割合が多い筋肉でも持久力を高めるためのトレーニングを積むことで、スピードやパワーを有しながら持久的な運動にも適した中間筋へと変えることが可能です。
自分の目的に応じて、それに必要な筋肉を鍛える必要があります。遅筋と速筋の割合は変えることができないといわれているため、中間筋の存在も意識しながら目的に向けて効率よくトレーニングする必要があります。
自分の速筋と遅筋の割合を測定する
速筋と遅筋の割合は生まれつき決まっており、遺伝的な要因が大きいと考えられます。特にスポーツをする場合は、自分の筋線維組成を知ることで、自分がどの競技に向いているのか、競技におけるどのような役割が適しているのかを理解することができます。
また、ボディメイクをする場合も、速筋と遅筋の割合を知っていれば、目標に合わせてトレーニングの種類の選択や負荷設定を正しくパーソナライズできるので、効率が上がります。
測定方法は、直説法(筋バイオプシー)と推定法(ランニングテスト)の2種類があります。
直接法(筋バイオプシー)
筋バイオプシーは、医療機関で筋肉の一部を切り取って筋線維を取り出す方法で、取り出した筋線維を調べて速筋と遅筋の比率を診断します。
正確に測定できますが、筋線維を取り出して修復するまで時間がかかるうえ、日本では検査事例が少ないので実用的ではありません。
推定法(ランニングテスト)
50メートル走のタイムと12分間走の到達距離を参考にして、筋肉における速筋の割合を導き出し、速筋と遅筋の比率を推定します。
それぞれのテスト結果を秒速に換算して、以下の式に当てはめて計算すると速筋の割合(%)を推定することができます。
速筋の割合(%)=69.8×(50m走の秒速÷12分間走の秒速)ー59.8
筋線維組成の推定式(勝田ほか,1989)
例:
50m走のタイム7.5秒、12分間走の到達距離3000mの場合
50m走の秒速:50m÷7.5秒=6.66m/秒
12分間走の秒速:3000m÷720秒=4.16m/秒
計算式:69.8×(6.66÷4.16)ー59.8=51.94
速筋と遅筋の割合=速筋52%:遅筋48%
推定法は、あくまでも大まかな数字なので直接法より精度は劣りますが、速筋と遅筋の割合の指標として十分に有効です。ただし、ランニングテストは環境、天候、体調などさまざまの要因に影響されるので同条件で正確に行う必要があります。
まとめ
スポーツにおいて、速筋と遅筋を理解することは非常に重要になります。
これからスポーツを始めようと思っている人は、自分の速筋と遅筋の割合を調べて、自分がパワー系の種目に向いているのか、持久系の種目に向いているのかを確かめることができます。
しかし多くの場合は、自分の身体組成によってスポーツを選択するのではなく、自分の好みや物心ついたときからスポーツを始めてます。速筋が多いから持久系スポーツには才能がないとか、遅筋が多いからパワー系スポーツができないということではありません。
それぞれの競技の中で、自分の先天的な身体組成からストロングポイントはどこなのかを知ることが必要です。また、もし伸び悩んでいる身体能力があるなら、速筋と遅筋を理解して正しくトレーニングすることで解決することもあります。
例えば、サッカーなどの団体競技では、ポジションによって必要とされる身体能力が異なります。自分がどのポジションに適しているのかを知ること、そしてそれぞれのポジションに合わせて速筋、遅筋、中間筋のどちらに寄せてトレーニングをするのかを決めることが大切です。
ボディメイクをする際には、まずは自分の目標を明確にして、「鍛え方」を間違えないようにしなければいけません。
身体を細くしたいのに速筋ばかり鍛えたり、身体を大きくしたいのに遅筋ばかりを鍛えてても望むような成果は得られません。
「自分の身体を変えたい」と思っても、目標を達成するための道筋が曖昧なままトレーニングをしてしまうと失敗してしまいます。速筋と遅筋の特徴、鍛え方、身体の部位ごとの比率を十分に理解してトレーニングすることが大切です。