サッカーの指導の中でも、特に育成年代の指導に必要なことを5つ挙げてみました。基本的なことですが、とても大事なことなので是非チェックしてみてください。
目次
なんでも上から教えたがらないこと!
日本の指導者は、サッカーに限らず学校の先生でも、どの教育者に関しても言えることですが、なんでも上から教えたがる傾向があります。1~10まで全て順を追って教えて「基本から応用に」を厳守してマニュアル通りに教育しています。
特に小さい子どもに関しては、子どもが何もできない前提で教えてしまっています。サッカーでいうなら、パスはインサイドキック、シュートはインステップキックなどと決めつけて教えるので、結局子どもは教えられた蹴り方しかできなくなります。
もちろん、パスはインサイドキックのほうが正確さが増しますし、シュートはインステップのほうが威力が増します。しかし、そうでなければいけないという決まりはありません。同じようにトラップやドリブル、ヘディングなど個人テクニックにはそれぞれコツはありますが、そうでなければいけないというものはひとつもないのです。
改善方法
大切なことは、1~10まで教えるのではなく、選手自身に気づかせることです。指導者は、選手が気づくためのヒントを与えるだけで十分です。黙って見守っていればいいものを、なんでも教えてしまうことで、教えられたことしかできない選手が育ってしまうのです。サッカーは教えられてうまくなるものではなく、自分の力でうまくなるものだと、選手も指導者自身も理解することが必要です。
例えば、メッシやネイマールが日本に生まれていたら、今のメッシやネイマールがいたでしょうか。小さい頃にマニュアル通りの教育を受けていたら、それなりの選手しか育ちません。
自分の知識や常識が常に正しいと思って教えることが危険です。あらゆる可能性をつぶしてしまう可能性があるからです。指導者はなるべく「何も言わなくても選手が成長する環境」をつくることが何よりも大切なのです。
選手に競わせること!
項目①で言及した「何も言わなくても選手が成長する環境」とはどういうものなのでしょうか。それは、チーム内での競争力を高めることです。選手同士がお互いを高め合って成長していける環境が理想です。とはいえ、そんな簡単なことではありません。しかし、知らずのうちに陥ってしまう負の状況があります。
選手をダメにする負の状況
・選手が指導者に答えを求めてしまう環境
選手が何かできないときやわからないときにすぐに指導者に答えを求める環境は、一見、選手と指導者の信頼関係があっていいチームに見えますし、指導者にとっては嬉しいかもしれません。しかし、選手は指導者に依存してはいけません。自分で考えて答えを見つけていく努力をしなければ、自立した選手にはなりません。
・仲が良すぎる環境
サッカーのような集団生活では、みんなの仲が良いに越したことはありません。しかし、指導者が「平等で仲の良いグループ」をつくる理想が高すぎるがゆえに、「見せかけの仲良しグループ」ができてしまっているケースがあります。集団生活で、全員がワキアイアイというのはあり得ないのです。スポーツの世界の現実を理解し、優劣の差を認め合えるグループを目指すことが必要です。
・他人に興味がない環境
仲が良すぎるのも問題ですが、もっと大きな問題は他人への無関心です。結果至上主義や個人主義を重んじるあまり、サッカーにおいて一番大切な「チームの概念」が欠けてしまうケースです。サッカーは個人競技ではないので1人ではできないのにも関わらず、他人に無関心というのは個人の成長もチームの成長も妨げることになります。
選手同士を競わせるためには?
忘れてはいけないのが、「選手同士が競い合う」ことが目標なのではなく、選手が「自ら成長する」ことが目標だということです。あくまで目標は成長することで、そのために選手同士が競い合ってお互いを高め合う環境づくりが必要となります。
大切なことは、チームとしての具体的な目標を明確にするということです。それは、抽象的なことではなく、すぐに結果として見える短期・中期的な目標のことです。例えば、「次の大会で優勝する」や「〇〇クラブに勝利する」など、選手にとって一番モチベーションとなるようなチームの目標を設定することによって、選手全員が同じ方向を向いて競い合う環境が自然にできてきます。
選手は、誰かに何かを教えられて成長するのではなく、競うことで成長するのです。
叱らない!
昔から「褒められて伸びるタイプ」と「叱られて伸びるタイプ」がいるとよく耳にします。しかし、本当にそうでしょうか。
人は、褒められることによって伸びることはあっても、叱られて伸びることはほとんどありません。「叱られて伸びる」という言葉は指導者の怠慢ではないでしょうか。叱ることでかモチベーションを上げたつもりになれなかったり、叱ることでしか自分のいうことを聞かせることができない無能さを正当化しているだけにしか思えません。
成長は、誰かに何かを言われてすぐにできるものではありません。結局最後には、自分の力でしか成長できないのです。そして、一番の成長材料はモチベーションです。大抵の人は褒められることによってモチベーションが上がり、褒められてモチベーションが下がる人はほとんどいません。逆に、叱られてモチベーションを上げる人はわずかにいたとしても、叱られてモチベーションを下げる人はたくさんいます。
叱られたときの感情のほとんどは、恐怖や否定感でしかないのです。
サッカーで1番のNGは、自信をなくしてしまうことです。サッカーのように一瞬の判断の繰り返しが要求されるスポーツでは、感覚的な要素が非常に重要なので、自信が全てです。自信をなくしたら一気にパフォーマンスを落としますし、自信をつけたら一気に”化けます”。
指導者の役割は、褒めることで選手のモチベーションを上げること、また自信をつけさせてあげることであって、叱ることによる恐怖によって選手をコントロールすることではありません。
道徳を教える!
育成年代の指導で、最も重要視しなければいけないのが道徳観です。上記で、「なんでも上から教えたがらないこと」「叱らないこと」と説明しましたが、唯一、指導者が責任感を持って立ち向かわなければいけないタスクがあります。それは、基本的な道徳観の徹底することです。
人の倫理観、道徳観というのは多様ですが、基本的なことはどの世代でも世界のどこに行っても変わりません。「人を傷つけてはいけない」「リスペクトをする」「モノを大事にする」「チームの規律を守る」など、集団生活において人として最低限できなければいけないことがあります。
道徳なり倫理は家族や学校の先生に任せて、サッカークラブではサッカーだけ教えてくれればいいと思う人がいるでしょう。しかし、サッカー選手以前にひとりの人間です。ピッチの中でも外でもきちんとした人を育てることがサッカー指導者の大きな役割でもあります。
スポーツの中でも、最も参加人数の多い競技のひとつであるサッカーでは、「集団生活」が基盤にあります。サッカーを通してでしか教えられないことがたくさんあるので、基本的な道徳観は徹底するべきです。
南米では、サッカーはほとんど教えてくれないのに、人間性については徹底して厳しく指導されます。グループを尊重し、「良い人間」であることの大切さをしつこいぐらいに叩き込ませます。
南米のサッカー選手たちは魅力的ですよね。それは、サッカーの実力だけではなく、人間性が非常に優れていることが影響されています。幼い頃から、サッカーを通して人として大切なことをたくさん学び、自立して、どこへ行っても慕われて愛される存在になっているのです。
あくまで脇役に徹する!
選手の意志を尊重することが指導者の役目であって、選手の気持ちを決めつけてしまうことは指導者の仕事ではないということを肝に銘じるべきです。
よく見かける光景が、試合や練習で選手より目立ってしまっている指導者です。熱を込めて指導することや、信念を持って仕事を全うする気持ちは理解できますが、あくまでサッカーの主役は選手です。指導者がいなくてもサッカーは成り立ちますが、選手がいなくてはサッカーは成り立ちません。
立場上、どうしても指導者が権威を持ってしまうので、指導者の独壇場になりやすい環境ではありますが、指導者は、そこに自分のエゴが混ざっていないか自己分析をして、一歩引いて見守る姿勢が大切です。
特に育成年代の指導では、完成していない選手を相手にするわけですから、選手がどんな可能性を秘めているかは誰にもわかりません。もし選手が自発的に何かを提案してきたら、それはとても貴重なことなので、できるだけ叶えてあげる努力をすることが必要です。「〇〇のポジションをプレーしたい」「リスクを犯しても○○したい」などを告げられたら、それは断る理由は指導者にはありません。
過保護になりすぎるのも問題で、「大事をとって」や「念のために」という言動を繰り返し過ぎると、選手には自己責任感がなくなってしまいます。選手が自分で決めて、自分で失敗体験をして学んでいくことのほうが価値があるのです。
まとめ
サッカーの育成年代の指導に必要なことをまとめてみました。
サッカーに限らずあらゆる分野にいえることですが、指導者の在り方について、しっかり見つめ直す機会を持つことが大切です。まず、「指導者が上、選手が下」という立場の概念を取り去らなければいけません。多くの場合、自分が受けてきた教育が成功例、または失敗例となって形を変えて再活用されていると思いますが、人それぞれ性格や考え方が違うので、マニュアル化するのはとても危険です。
選手は、モチベーションがある限り成長をし続けます。自分なりに試行錯誤しながら、トライ&エラーを繰り返すことができる環境を与えてあげることが指導者の大きな役割です。指導者にできることは本当にごく僅かですが、その中でも選手に少しでもいい影響を与えられるように精進していきましょう。
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